|
【出生】
カキノ氏は、大都会東京の、ある大道路のコンクリートとコンクリートの割れ目から、生え生まれた。
固い人口石の間より芽吹いた小さくも力強い命は、都会人の乾いた心を震わせた。
誕生より3日後、母親と思しき人物が、こっそり摘んでいったと言われる。
【幼児期】
幼児期のカキノ氏は、元気でよく遊ぶ普通の子供であった。
友人とかくれんぼをしては、墓石と墓石の間や、古井戸の中によく隠れた。
石灯籠の中に入ろうとして抜けなくなった時は、近隣で演習中だったソ連軍のお世話になり、
地方紙のトップを飾った事もある。
【小学校】
カキノ氏は、小学生生活を、演劇部に掛けた。
小学6年時には、県の演劇大会小学生の部におき、同氏所属演劇部の「日本神話」が見事優勝。
同氏は主人公「天照大神」にて、審査員特別賞を授与される。
ことに天照が狭い天岩戸に閉じこもるシーンは圧巻で、マスコミ・演劇関係者から絶賛された。
【中学校】
中学入学後の親睦会を兼ねたオリエンテーション遠足にて、富士山に登る。
そこで、カキノ氏は足を滑らせ、落下。
崖と崖の間に挟まり、救助が来るまでの3年間、挟まり続け、中学生生活を台無しにする。
【高校〜現在】
高校に上がったカキノ氏は、普通の若者らしく、漠然とした悩みに苦しめられる。
何事にも満足できず、どこにも居場所を見出せない青年は、
ある日、母親から出生の秘密を聞かされ、ショックで家出。
家出ついでに、自分探しの旅へと、世界へ飛び立つ。
散々世界を回ったがどこにも自らを発見できなかったカキノ氏は、すっかりやさぐれ世捨て人。
しかし、ホームレスのおやじの勧めで始めた石の判子作りを続けるうち、同氏は徐々に気付いていった。
「俺のルーツ。それは…石の溝だ」
そう。思えばカキノ氏の人生は鉱物、そしてその鉱物と鉱物の間に出来た空間に満ちていた。
あの時も、この時も、…石の溝。
それに気付かされたのも、又、石の溝彫り、即ち判子製作によってだった。
同氏は、自らと対峙するには、石の溝と対峙せねばならぬと悟った。
彼は彫る、今日も石を。
己を知り、又これに勝つ為に。 |
|
|